エロゲMAD大紀行 〜絶滅したMAD作家編 1.遠野みりん編〜

みんなで広げようエロゲMADの輪。
エロゲMADは数少ない凋落の文化である。
グダったシナリオをポエムにて改変するもの、そこはかとないエロスを漂わせながら編集するもの、パンチラ部分の切抜きやおっぱい部分の描き足しに興奮するもの、その容態は多種多様であり、ガラパゴス諸島のゾウガメのように島ごとの進化を遂げたものが多くいる。


このシリーズも三回から既に一年が経とうとしている。
一年というものは早いものであり、もう筆をとることもないかと考えていたが、丁度、今人気が出ているフレンズが沢山出るアニメにあやかり、この機会に再度、記事を投稿しよう、そう考えたのである。


さて、今回のテーマは少し寂しい。かつてエロゲMAD作者として活躍していたが、社会の闇に飲まれたのか、リアルに人生を楽しむようになったのか、消えていった者たちがテーマだ。いわゆる、絶滅したフレンズたちが本シリーズには多く出てくるのだが、彼らがいつかこの記事をふと目にした拍子に昔を懐かしむ一つの切っ掛けになれば嬉しいことこの上ない。


紹介に入る前にエロゲMAD作者を取り巻く環境について簡単に紹介しておこう。そもそもエロゲとは18禁ゲームであるため、ラノベや漫画MAD作者と比較し、年齢が大学後半から社会人、いわゆるおっさんであるケースが大多数である。(ビデオテープ時代のアニメMAD作者と比較すると若いおっさんとも言えるだろう)
そのおっさんたちの多くは、学生時代にエロゲにはまり、そして何故かMADにはまり、
社会人になって、理不尽なパワハラやブラックな残業に飲まれ、半数は消えていくという悲しい運命が待ち構えている。中には巧妙に名前を変えてエロゲデモ作家となる出世魚のような作者もいるが、それも少数である。結果的に残ったおっさんたちが、社会への怒りをエロゲMADに昇華させながら、細々と作り続けている。


前置きはそろそろ終わりにして本題に入ることにしよう。
以下、敬称を省いて書く。



〜遠野みりん編【絶滅種】〜


岩手県遠野市奥州市、大船渡市に隣接する山間部にあり、柳田邦夫の「遠野物語」より古来から伝奇、怪奇といった雰囲気がある不思議な地である。平泉の藤原氏が建てた滅びたみちのくの都、宮沢賢治の出生の地である花巻までも釜石線奥羽本線により辿り着ける、歴史・文学・伝承が交錯する地で遠野みりんは生まれた。(遠野というHNからしてそれは間違いない)


zoome時代の後期にエロゲMAD作者としてデビューした遠野。
その作風も初期は遠野市ゆかりの伝奇的な雰囲気を醸し出していた。



殻ノ少女- PureLove_sTory

http://v.yinyuetai.com/video/274845



天野月を使ったイノセントグレイ、殻の少女のMADである。当時ずーみーでは非常に異彩を放った作品であった。その頃のずーみーはアニメが大半を占めている中、静止画は禁書、エロゲはキャラゲーという時期である。そんな中、ノスタルジックな雰囲気を持つこのMADに私はエロゲMADの新たな時代が来たことを予感した。新たな風である。


彼の作風の特徴は頑ななまでの明朝体へのこだわりである。
彼は英字であればセリフ、日本語では明朝以外のフォントを使わないように心がけていた。

そもそもゴシックなど、なよなよとしていかん、男なら明朝であるべき。
トメやハネがしっかりしていない文字を見ると直さずにはいられない。
そんな性格だからこそか、彼のMADは芯が通っているように見えるのである。


その後、IoriStudiosというAMV団体に所属した後、掛け持ちで野良MAD製作所にも所属することになる。MADのこだわりとは別に話してみると物腰柔らかく丁寧である。
そのため人望も厚く、ホモ疑惑を除いては比較的多くのMAD作者から好かれていたため
合作に誘われることも多かったようだ。


彼の個人作をもう少し紹介することとしよう。




【MAD】11eyes-For a Friend And Tomorrow -


スピード感のある編集。多種多様なカットがひしめく構成には序盤・中盤・終盤と隙が無い。11eyesはただの中二病だと揶揄する人間もいるが、このMADを見れば考えが変わるに違いない。とにかく熱量が半端ないのだ。そして明朝体もいい味を出している。途中で出てくる剣を持ったおっさんが誰かは知らないが、まるで在りし日のエロゲプレイヤーとダブって私には見えたのである。とにかくカッコいいMADなので是非ご視聴いただきたい。




【MAD】はつゆきさくら-SnowyCrystal-

かつてギャグ7割シリアス3割と某氏が語っていたはつゆきさくらのMADである。
はつゆきさくらはゴーストが出てくる伝奇的な作品である。これだけ可愛いキャラたちがいるのにその背景は実に陰鬱。復讐がテーマの作品だ。

それを遠野は0:34の「復讐を」という明朝体で一瞬で視聴者に分かるように表現している。ただ、彼はこの作品のギャグ要素も表現しようとした。ここに彼の悩みや葛藤が見える。初めて明朝体を使わない可愛い文字を使いキャラを紹介するという、自分の主義と相反する作風。失敗すれば、自分のこの作品は破壊されてしまう。だが明るい雰囲気も表現しなければならない。この時の心労は筆舌に尽くしがたいものがあるだろう。

その決断は結果として功を奏した。彼のこの作品は「発売前の奇跡」と呼ばれ、話題となる。体験版しかプレイをしていないのにMADを作る戦闘狂のような作者は彼を除くと、以前紹介した「回転のかざみ」と「世界のhaira」以外には存在しない。多分。体験版だけで作ったのにまるで全部ストーリーをやっているかのごとく、見せる手腕は尊敬に値するものなのだ。



その後も彼は作品を作り続ける。彼の活動は幅広く、ラノベ、アニメにも造詣が深くラノベ静止画やAMVも作成している。




【MAD】マブラヴ-DOG FIGHT MEMORIES-

そして彼の集大成ともいえるのがこちらの作品である。
1分半なのにまるで1時間半のマブラヴ映画を見たような気すらする激しい編集が人気を呼び、マイリス約800という非常に良い成績をおさめ、かつ吉宗鋼紀も巡回した。激しいカメラワークは初期のおどろおどろしい雰囲気はなりを潜め、ほとばしる熱いパトスな雰囲気だ。そして見どころは0:52の三人の構図である。とりあえず三人置いとけばカッコいいかという安易な考えではなくサビへの高まりを出すために必要なワンカットなのである。さらにこの作品もふんだんに使われている明朝体が作品をキリッとひきしまったものにしている。素晴らしい作品だ。


彼の進化は続き、2013年にはDEARDROPSのMADを投稿する。



【MAD】DEARDROPS-未来への旋律-


なんだ、この熱量は。疾走感と音ハメが実に気持ちよくDEARDROPSの雰囲気にあったロックなMADである。サビの歌詞は何を言っているか分からないが、なんか編集がカッコいいし多分いいことを言っているのだろう、そう思わせるようなMADに私は感動を覚えた。やはりカット数が多く熱いMADは正義なのだ。そんなMADを出した遠野を当時の私は尊敬の眼差しで見ており、大きくなったら遠野みたいになるんだ、そう考えていた時期もあった。



しかし、2013年ごろから彼は社会の闇に呑まれる。ブラックを体現したような勤務状況を聞くたびに私は心を締め付けられるように思った。そして自分探しの旅に出て、東京喰種のMADを最後にその姿を見ることはなくなってしまった。


社会はMAD作者に対してはどこまでも冷たい。そんな理不尽さに耐えて、MADを作り続ける人間は少数だという。日本で絶滅が確認されたトキが輸入されたように彼が再び復活することを願い、結びとする。
(この記事に一部、誇張表現があることをお許し頂きたい)


(2017年2月25日 Pluvia)