エロゲMAD大紀行 第二回

エロゲMAD大紀行 〜KAZAMI編〜



みんなで広げようエロゲMADの輪。
エロゲMADは数少ない凋落の文化である。
グダったシナリオをポエムにて改変するもの、そこはかとないエロスを漂わせながら編集するもの、パンチラ部分の切抜きやおっぱい部分の描き足しに興奮するもの、その容態は多種多様であり、ガラパゴス諸島のゾウガメのように島ごとの進化を遂げたものが多くいる。
今日はそんなエロゲMAD作者にスポットを当てて記事を書いていこうと思う。
以下、敬称を省いて書く。


第二回はKAZAMIという作者である。


KAZAMI、通称:かざも とも言う。
もう一度、言う。かざもである。
このかざもというネーミングには諸説あるが、「かざみモーション」という彼独特のモーションが縮まり、つけられたものだと言われている。
もう既にKAZAMIさんと呼ぶ人は皆無であり、「かざも」もしくは「かざみん」と呼ばれている。


このMAD作者は第一回で紹介した日なた猫とエロゲ窓という団体により繋がっており、数々のエロゲイベントを主催している。
彼の活躍が無ければ、EMSF、MADtheParty、春の陣シリーズ等のイベントは全て開かれなかったと考えてもいい。
それだけ作ったMAD以上に、界隈に影響を残している人物である。


余談ではあるが、意外にもこのエロゲ窓の起こりは、2013年7月、腹パン天使(仮名)による声掛けで集まったものである。
腹パン天使(仮名)の舎弟による団体、それがエロゲ窓の起こりという歴史を知る人物は数少ない。
ましてや、当の腹パン天使(仮名)はそうそうに最初期のイベントでフェードアウトしてしまったため、より埋もれてしまった歴史と言えよう。


脱線したが、彼と私が出会ったのは、その2013年より前である。
当時、ニコニコのエロゲMADを見ることを生きがいにしていた私にあるエロゲMADが目に留まった。
「【MAD】 ナツユメナギサ 「Precious Summer」である。


このMADを見て、驚いた。
なんと、niveというカクカクモーションの申し子のようなフリーソフトでAEのような滑らかなモーションを作り出していたのである。
「弘法は筆を選ばず」まるで彼のためにある言葉である。


その後、はつゆきさくらのMADで頭角を表した彼は、数作目で既に私の作り出すモーションを遥かに超えた、今で言うかざもの原型を作り出していたのである。
彼の「【MAD】-GHOST GRADUATION-【はつゆきさくら】」はニコニコのエロゲMADでは異例というべきマイリス1000の壁を軽々と突破した。
数々のはつゆきさくらMADを手掛けてきた功績からはつゆきさくらと言えば、かざみ。そう皆に言わしめるまでの活躍ぶりを発揮したのである。


2011年ごろから彼を追っていた私だが、初めて話したのはその2年後のエロゲ窓設立の時、2013年の夏である。
その頃には既に真紅オタと化していた彼であったが、私は温かい目で彼を見ることにした。
彼と話し始めた頃は、EMSFの事務的な会話と真紅の話が多かったと思う。


以上が私が見てきたKAZAMIである。
さて、そんな彼がどんなMAD作者なのかを語っていこう。


彼の持ち味はテキスト・モーション・制作スピードの三つが上手く融合しているバランスタイプのMAD作者と言えよう。
驚くべき部分は序盤・中盤・終盤と隙が無く、まるでキャラクターが躍動するようなMADを作ることである。


彼の代表作は「【MAD】 Ascension to Heaven(通称:回転真紅)」「【MAD】 希望の前で待ち合わせ(通称:まーたーねー)」「【MAD】-GHOST GRADUATION-(通称:バニッシュうさぎ)」など数々あるが、どれも独特の気持ちのいいモーションが特徴的だ。


かざみモーションについては、かつて一世を風靡した龍花モーションの派生と考えるDOMもいたが、今では彼独自のモーションへと進化を遂げている。
一節ではまるで命を刈り取るようなモーションとも言われ、
その滑らかなモーションは真似しようとしても出来ず、回転モーションをここまで取り入れたMAD作者は、この界隈では彼以外には全く思い当たらないほどである。


そんな彼ではあるが、決してモーションばかりが先行しているわけではない。
彼のMADが好まれる理由は3分以上の尺でストーリーをまとめるというそのパワーである。
テキストの流れも去ることながら全体の構成としても見るものを飽きさせないその鬼神っぷりには舌を巻いてしまう。
名台詞「まーたーねー」を取り入れたひまなつMADは今でもしばしば話題に上がる。


また、彼はよく「火力」という言葉を使う。それはエロゲの数値を測る、簡単に言えば、彼独自のスカウターのようなものらしく一定以上の火力を持つ(感動を与えた)エロゲでしかMADを作らない。
そんな恐ろしいまでのストイックさとともに日々、MADを作っているのである。
彼の性癖はケモ耳である。しかし、私は彼のケモ耳MADを見たことがない。
恐らく、数あるエロゲでケモ耳ものをプレイしているにも関わらず、火力不足ということで冷静にMADの候補から外しているのだ。
「泣いて馬謖を切る」まるで彼のためにある言葉である。


さて、制作スピードについても彼は常人以上のスピードを誇る。既にその作品数は30を超えている。
EMSFの際に前夜祭と後夜祭の考案したのは私だったが、前夜祭、後夜祭ともに作品を出したのは私と彼だけだったように記憶している。
それだけ制作から完成までのスピード感が早いMAD作者である。


未だに根強いファンのいる彼だが、その向上心はとどまることを知らない。
最近ではBlenderによるモデリングもこなし「【MAD(たぶん)】 君の名を映す世界へと―― (通称:地球)」
では見事なモデリング技術により多くのDOMを圧倒した。今後も彼の3Dは進化していくことが容易に想像できる。


そろそろKAZAMIについて語るべきことを語ったというところになるが、
最後に彼が言った言葉で最も私が印象に残ったものの話をしたいと思う。



以前、私が「なぜ、そんなに回すのが好きなのか?」と不思議に思い、尋ねた時のことだ。
ノーモーションで「気持ちがいいから」という回答が返ってきた。


まるで、そこに山があるから登るんだと言うような回答に私は感動を覚えた。


彼は日頃から食器やエロゲの箱など近くにあるものを回して、どのようなモーションが気持ちいいか研究しているという。
そのこだわりがあのモーションを作り出している。

今、日本のエロゲMADは消えかかっている。しかし、こんなところにも磨かれた匠の技術が存在するのである。
そんな匠の技術を感じさせてくれる彼にこれからも新たな作品を期待するとともに今後の更なる進化を期待し、結びとしたい。


(この記事に一部、誇張表現があることをお許し頂きたい)


(2016年5月29日 Pluvia)